今日も君に翻弄される。
説明を聞いて。
解答を見て。
丸つけをして。
「閉めますよ」
そう声をかけられたときには、しっかり復習が終わっていた。
「帰りましょうか」
和泉さんが片づけを始めた。
「そう、ですね」
開けて待っててもらった扉を早足でくぐって、何とはなしに一緒に階段を下りる。
一つ目の踊り場に着くまでの無言を先に破ったのは、和泉さん。
「疲れましたね」
「はい。あ、クッキー食べますか」
甘いもの食べると元気になりますよ。
先ほどと同じクッキーを渡すと、和泉さんはおかしそうに喉を鳴らした。
「…頂きます」
「どうぞ」
わたしもついでにクッキーをかじる。
うん、美味しい。
しばらく無言でクッキーをお腹に収める。
「次も受けますか」
かたん、かたん、高い靴音が二つ、反響する。
「はい。申し込みはしました」
かたん、かたん。
「会場はどこですか」
当たり障りのない会話を、なるべく途切れないように振ってくれる。
かたん、かたん。
和泉さんの足音が、する。
わたしの足音が追いかける。
かたん、かたん、階段が鳴る。
「ここのお隣です」
「最近ここら一帯多いですよね」
「ね」
かたん、かたん。
足音が、止まる。