今日も君に翻弄される。
ここ、かなあ。


そろーり覗いていると、階段から戻ってきた、看板を首に下げた男の子に見つかった。


客引きの恰好をしているってことは、この人一年生なのか。


何だか年下に見えない大人っぽさがあるかっこいい人だなあ。


そんな阿呆丸出しな感想を抱くわたしに、にこやかに声をかける。


「おねーさん、実験やっていきませんか! 休憩もできますよ!」


化学部、と少し不器用に、けれどものすごくでかでかと書かれた段ボールの看板。


いかにも男子お手製、という感じのそれに微笑ましくなる。


「いかがですか、おねーさん!」

「え、おねーさん!?」


あんまりちゃんと聞いていなかったものだから、似合わない呼称に今さら気づいて足が止まる。


びっくりした。


……おねーさん、なんて。


和泉くんなら鼻で笑うんだろう。


わたしは少し怒って、でも内心確かにって思うんだ。


ああ、和泉くんに会いたい。


和泉くんまだかな。
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