今日も君に翻弄される。
足を止めて、邪魔にならないように壁際に寄る。


足を止めた、というか、待ち合わせ場所はここなので当然のこと。


だけど、傍目には分かるわけもなく。


それを見た大人っぽい和泉くんの後輩さんは、目を輝かせ。


にこやかに笑って、ずずいと近すぎないくらいまで距離を詰めた。


「今なら百円で、お菓子もついてきますよ。いかがですか?」


……何だかわたしに狙いを定めてしまったらしい。


これはしごく当然こうなるかもしれない、ということを失念していた。


だって、客引きをしている自分の目の前で、


まさに客引きをかけたお客さんが、


(本人にそのつもりはないけど)足早に通り過ぎずに立ち止まったのだ。


わたしだって、あと一押しだ! と思うさ。


……それにしても。


お菓子かあ、何て魅力的なんだ。


どんなのだろ、


いやいやいや、待ち合わせしてるんだもん、ちょっとくらいとか考えちゃ駄目だわたし……!


後ろ髪引かれる思いで懸命に耐えるわたしに、ぜひぜひ! さあさあ! とすすめる、にこやかくん。


うっ……申し訳ない。
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