今日も君に翻弄される。
「ごめんね、後輩が」


言いながら、和泉くんにしてはいささか乱暴に手をひっぱる。


わたしを佐竹さんから引き離し、隅の方に連れて行ってくれた。


喧騒から遠ざけてくれた和泉くんが、握ったままの手に一瞬だけ力を込める。


……何だろう。


安心してぼけっとしていたんだけど、まばたきをして考えてみた。


思いつかない和泉くんの行動の意味合いに、見上げると。


答えを教えてくれる代わりに、和泉くんがいたずらっぽく微笑んだ。


「ねえ、葵」

「うん?」

「珍しいね、どうしたの」


ふわり、もう一度、わたしの髪をすいて。


「いつもみたいに、ぎゅってしてくれないの?」


甘く優しい、問いかけを、ゆっくりゆっくり、した。
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