今日も君に翻弄される。
触っていいのか、と変態じみた確信を持つ。


「和泉くん……!」


腰に衝突する勢いで抱き着くと。


「遅くなってごめん」


和泉くんが、くすりと笑って腕に力を込めた。


ぎゅうう、と抱き着いて、にへらにへらと気持ち悪くにやついていると。


驚きでその場で固まっていた佐竹さんが、どでかい声量で叫んだ。


「えええ、秋庭先輩が女子を自主的に抱きしめている!! 彼女っすか!?」

「うるさい」


あっさりしすぎな和泉くん、後輩さんに冷たい。


大音量は喧騒に紛れたから、そう肩を怒らすこともないじゃないか。


心中なだめつつ、口には出せない小心者なわたし。


というか佐竹さん、口調作ってたのか。


「葵、どこ行こうか」


そっと離れると、ぼさぼさになった髪を直してくれた和泉くん。


またも叫びそうになって口を押え、咳き込む佐竹さん。


……口押さえて咳き込むなんて、すごく親近感湧いてきた。


ここは彼の努力に報いるべきだろう。
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