今日も君に翻弄される。
よおし、気張れよわたし!


まずは手を合わせるんだ!


「和泉くん、お願い!」

「…………」


次に賄賂だ!


「あとでクッキー渡すから!」


これで完璧、


「それはいらない」


がーん。


懸命なわたしを無情に切って捨てた和泉くん。


…………ひどい。

即答、しかも拒否。


ひどい。


うなだれるわたしの後ろから、声が飛ぶ。


「先輩、お願いします!」


あ、眉間にしわ寄った。

和泉くん今いらついた顔した。


ごめん佐竹さん、その援護はいらなかったよ。


「葵」


ぶす、と仏頂面の和泉くんは、不機嫌に口を歪める。


「うるさいから、ひとまず入ろうか」

「うん。ねえねえ和泉くん、やきもち?」


隠しきれていない照れに、くすくす笑えば。


「…………そうなんじゃないの」


くしゃり、前髪をかき混ぜた和泉くんが、顔を隠したまま、足早に扉を開けた。
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