今日も君に翻弄される。
「いらっしゃいませー」

「らっさーせー」


佐竹さんは客引きに行ったので、和泉くんの後ろに続く。


「ってあれ、先輩校内回ってくるんじゃ……」


お客さんの顔を確認し、略した挨拶をした店員さんが、顔を引きつらせた。


うーん、気づくのはちょっと遅かったと言わざるを得ない。


「何、来たら困るの」

「い、いえ!」

「そう。でも次あんな挨拶したら、片づけ一人でさせるから」


うす! と恐怖に頷く店員さん、動きが固い。


というかここは化学部じゃなかったんだろうか。


何でこんなに運動部のノリなんだ。


それ以上店員さんを和泉くんの鋭い視線にさらすのは忍びなかったので、とんとん、背中をつつく。


「和泉くん、わたしも中入りたい」

「ん」


和泉くんの真後ろに立つと、中の様子が全くもって見えないのだ。


避けてくれた和泉くんの背中から、わくわく、喜び勇んで入り込む。


まばらな人が見えた室内は、薬品の匂いに混じって、ほのかに甘い香りがした。
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