今日も君に翻弄される。
手を離し、ゆっくりした口調で説明する和泉くん。


「百円。カルメ焼きは実験、べっこう飴はお土産に配るやつ」

「実験? 実験ね、分かった実験しよう和泉くん!」


ぐいぐい、またもや引っ張ろうとして、はっと手のひらを握り込む。


そろりそろりと目線を上げて、和泉くんを見遣れば。


困った感じを瞳にのせた和泉くんが、眉を下げて、人差し指を唇に当てた。


「分かったけど、もう少し静かにしてね」

「うん、ごめんなさい……」


うなだれたわたしの頭をぽんぽん、と大きな手のひらが往復する。


ぽんぽんするの、気に入ったらしい。


慰めるのに手を繋ぐより楽、とか思ってそうだけど、傍目から見たら結構あれだよ和泉くん。


ほら、店員さんがみんなおかしな顔で注視してるじゃんか。


お客さんは微笑ましげだし。


わたしもちょこっと恥ずかしいかなあ、なんて。


「…………え、秋庭せんぱ、え?」


らっさーせー、とあいさつした店員さんが、奇妙な現象を見てしまったかのようにまばたきを繰り返して。


ぎぎぎ、と固まる。


「「「はあ!?」」」


店員さんたちの大声が、綺麗に重なった。
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