今日も君に翻弄される。
「え、あの」


受け取らなきゃいけない気持ちになるくらい、ずずいと差し出されたカルメ焼き。


「葵」

「ええと……」

「お願いだから、黙秘して」


カルメ焼きを見て、

和泉くんを見て、……真顔でこちらを見ていて、


慌ててカルメ焼きを受け取った。


「和泉くんありがとう、いただきます!」

「うん。分かってるよね」


明らかな念押しに何度も頷く。


「分かってる! 秘密ね!」

「うん」


せっかく出した茶目っ気は、和泉くんによって簡単に阻止されてしまった。


「えー」とか膨れる後輩さんたち。


あの、抗議はわたしじゃなくて和泉くんにお願いします。


というか、どんどん和泉くんが殺伐としてきているのでやめた方がいいと、


あああ、何でそこでわたしに助けてみたいな視線を送るんですかあああ!?


「葵」

「う、うん!?」

「言わないよね」


こくこくこくと首を振り下ろし、後輩さんたちに謝る。


「えと、後で怒られちゃうと思うので。すみません、やっぱり秘密で」


納得の表情で神妙に辞退された。


怒られちゃう、のところで皆さん何だか涙目だった。


……ねえ、和泉くん。


君は普段、一体何をやってるんだね。
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