今日も君に翻弄される。
「葵」

「うん?」


言いにくそうにしているのが不思議だ。


そんなに噛む要素は入っていない名前なんだけどな。

疲れてるのかなあ。


どうしたの、と見つめたわたしに、和泉くんはためらいながら話しかけた。


「今日は何の日」

「ホワイトデーだよ?」


だからこうして一緒にいるんじゃないか。


寒いけど一緒に帰ってもいい? って和泉くんが提案してくれたから。


喜び勇んでオッケーしたんだもん、いくらわたしだってそうそう忘れないよ。


「……うん。今日はホワイトデー」


和泉くんはぽつりと呟いて、困ったように息を潜めている。


……どうしたんだ和泉くん。


各企業の戦略がどうとか、意味不明なイベントだとか、辛らつなつっこみはどこ行ったの……!


相変わらず話しにくそうだし、和泉くんがいろいろ珍しいよ。


「あのさ」

「うん」


殊勝に頷くわたしに、知ってる? と一拍置いて。


「お返しなんだけど」


和泉くんは早口で続けた。
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