今日も君に翻弄される。
そっと余韻が残る。


ほのかに暖かい風が吹いていた。


足元の道端に新芽がいくつか芽吹いている。


ちらり、横を流し見れば。


和泉くんの眼鏡が、見える。


わたしが褒めてから、勉強するとき以外にもよくかけているのを見るようになった、青いフレーム。


和泉くんによく似合う、和泉くんみたいな涼しい色。


和泉くんだなあ、と思った。


和泉くんが好きだなあと思った。


「そっか」

「……うん。そう」

「うん」


息を溶かすような肯定をお互いに何度も重ねて、微笑み合って。


結ぶ約束に、言葉はいらない。




あのね、大丈夫だよ。

安心してよ、和泉くん。


わたし、滅多なことじゃなきゃ泣かないよ。

和泉くんの彼女だもん。


困らせるのは、本意じゃない。


和泉くんの、彼女だもん。


「……ふふ」


緩む表情筋に任せていると、珍しく注意しないまま。


和泉くんはもう一度、ぎゅっと、わたしの手を握り直した。
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