今日も君に翻弄される。
『(……しょうがないなあ)』


和泉くんが溜め息を吐いた。


深々と、それはそれは呆れたように嘆息して。


『一日だけなら』

「うん!」


了解してくれた和泉くんに心が弾む。


見えもしないのにこくこく頷くと、電話口で紙をめくる音がした。


『幸い僕は明日の放課後予定がない。暗くなるから七時まで、それでいいなら教える』


それでいいも何も、わたしに拒否なんて選択肢はない。


もちろん肯定。


「わかった、それでお願いします」

『うん、七時ね』

「七時だね。大丈夫、メモとるから。じゃあ、また明日、和泉くん」


図書館で会おうね! とメモをしながら言ったわたしに「また明日」と返した和泉くんは。


電話を切ろうとするのを引き止めて、ゆっくりと、言い含めるようにおっしゃった。


『でも葵』
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