今日も君に翻弄される。
「四時三十五分でしょ、知ってるよ。わたしも時計あるもん」

「違う」


いいから、と和泉くんはもう一度手首を突き出して、びしり、自分のものを指差した。


「これ、何時」

「だから四時三十五分、……あれ?」


きらめくガラスの向こう、銀の枠に囲まれて。

青い盤の上。


しかめつらしい黒の針は四時半を指していた。


「葵さ、時計進めてたりしない? 余裕持って行動できるように」


和泉くんの推測に昨日の夜が思い出された。


そうだそうじゃないか、

絶対わたしは遅れるから、余裕を持って、むしろ何十分でも待つつもりでいようと決めて、時計を五分きっかり進めておいたんじゃないか。


自ら進めておきながら、焦って頭からすっぽ抜けて指摘されるまで気づかないとは、わたしは何と残念なやつなのか。


「……して、ます」

「やっぱり。だから遅れてないよ」


意地悪してごめんね、と和泉くんが頭を撫でた。


それだけで、何だかもうどうでもよくなるわたしは実に簡単だ。
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