今日も君に翻弄される。
論文、というのは、来週水曜日が期限の課題だとか。


化学部で大会に出すのだという。


「折角図書館に来るんだから、片付けようと思って持ってきた」

「わたしの勉強やったら邪魔じゃない?」


締め切りがそんなに近いのに、わたしなんかに構っていても大丈夫なのかな。


遠慮すればよかっただろうか。


聞いてみても、大丈夫、と和泉くんは余裕の表情を崩さない。


心配になってきたわたしを慮って、「調べるところは残りわずかで、負担は少ないんだ」と、説明された。


「だからちゃんと教える。もし時間が余ったらの話」


和泉くんが言うのだからそうなんだろう。


和泉くんはこういうとき、むしろ誤魔化さない。そして、遠慮もしてくれない……。


葵に嘘を吐くのは非効率だから、と以前言っていたのを思い出した。


納得して質問を開始する。


和泉くんは詰まることなく答えて、目を白黒させて唸るわたしにも分かるまで、繰り返し丁寧に教えてくれた。
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