今日も君に翻弄される。
「何、葵」

「え、あ、ごめん。論文すごいなって」


文字列に酔ってました、とはさすがに言えない。


無難で嘘じゃない線を探ると、ぐるぐるしていた気持ちは大分短くなった。


要約って便利だなあ。


「気が散る? 止めようか」


そうだった。

本を持ってきたくせして、読書を放っぽり出していたんだった。


忙しいのに気にかけてくれたらしい。


「ううん、大丈夫」


ありがとう、とお礼を言ってもはぐらかされるので、心の中でそっと呟く。


温かい雰囲気になったところに、和泉くんは唐突にお砂糖を投げた。


「ちなみに」

「うん?」

「止めると、このまま葵を見つめるコースに突入するよ」

「……うん分かった絶対止めなくていいよ!」


必死の形相に噴いて、


「残念」


などと真意の読めない呟きをもらした和泉くんに戦慄する。
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