今日も君に翻弄される。
「大丈夫。すぐに終わるよ」


まるでなだめるみたいに和泉くんが笑った。


「………別に、怒ってないもん」

「うん。ありがとう、葵」


いつもはからかうのに。


分かりやすいわたしの言葉を、今ばかりは茶化さない。


ずるい、よ。

ずるいよ、和泉くん。


わたしにはお礼なんて言わせてはくれないのに。


わたしはお礼なんて、言えないのに。


自分だけあっさり言ってしまう。


「…………和泉くんの馬鹿」

「葵は可愛い」


……うーん、馬鹿ってそういう意味で言ったんじゃないんだけど、多分会話の誘導を含んでいるんだろうなあ、これは。


お誘いに乗ることにした。


「そんなこと」

「ある」

「…………」


即答ですか。


そうですか。


「葵は可愛い」


ああ、もう、この人は本当に。
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