今日も君に翻弄される。
出会ったときからいつだって、わたしを甘やかしてばっかりだ。


「……和泉くん大好き」


小さくてかすれた呟きを落とす。


ありがとうと言ってもはぐらかされるだろうから、ありがとうは言わない。


代わりに感謝を込めた大好きを何度も伝える。

そっとそっと、告げる。


和泉くんだけにかろうじて聞こえる音量で、本に顔をうずめて、分かりにくいありがとうを投げた。


「……和泉くん、大好き」

「うん」


吐息混じりの肯定は、わたしの胸にそっと帰着して。


密やかに、

緩やかに、

穏やかに、

まろやかに、


ふわり、ふわりと。


優しく大気に溶ける。
< 60 / 261 >

この作品をシェア

pagetop