今日も君に翻弄される。
「……そうだね」


和泉くんがまず押し出したのは、自分を納得させるための呟きだった。


「うん」


促すくらいの距離を保って、相づちを打つ。


和泉くんはゆっくりと、言葉を選び選び言った。


「いらないというよりは、今日は必要ないと言った方が正しいかもしれない」


今日は両親に会わない予定だから、と提示する。


「今度また来たときもし会ったら、に取っておいて」と、言われれば。


また行ってもいいんだ! と、そっちが気になってしまう。


不意討ちに高鳴る鼓動は押さえつけ。


わたしは一つ頷いて、分かった旨を伝えた。


「ごめん、言い方が悪かった」

「ううん、ありがとう!」


わたしこそ余計な気を回してごめん、と謝ると、ふわり、和泉くんは黙って微笑んだ。


優しい笑みに心臓がうるさい。


……これだから。


これだから、この人はずるいんだ。


ぐぬぬぬぬ、と思わず唸りそうになった。


そこで柔らかく笑うのは反則だよ……!


気にしないでなんて言ってくれる性格ではないけど、大丈夫、と聞こえてくるようで温かかった。
< 67 / 261 >

この作品をシェア

pagetop