名前を教えてあげる。
「大きくなり過ぎたから、普通に中絶出来ない。人工的に産んで、死産だったことにするって…」
美緒が涙を堪えようと頭を下げると、順はそっと美緒の腹に触れてきた。
「俺と美緒の子だ……」
美緒のポタポタと垂れる涙が、順の手の甲を濡らした。
「…もうね、胎動あるんだよ。ぽこぽこって、お腹の中で泡が立ってるみたいなの。最初は何かよく分からなかったけど、赤ちゃんが動いてるんだって」
「…すげえ!」
順が嬉しそうに笑った。
「男かな?女かな?」
そんな質問はあまりにも悲しかった。
美緒は、嗚咽を漏らした。
「…………美緒、逃げよう!」
順の突拍子もない提案に、美緒は驚いた。
「このままじゃ、子供は殺されちまう。俺が働いて、美緒を養うから。
結婚しよう!
元気な赤ちゃんを産んで、うちの親に見せれば、きっと許してくれるよ…」
「順…無理だよ…大学はどうするの…」
泣きじゃくりながら、美緒は頭を振った。
「回り道は仕方ないよ。医者にならなく
たって、他にも人の役に立つやりがいのある仕事はいくらでもあるはずだ。
それはこれから探すよ」
自分を鼓舞するようにいう順が、愛おしくてたまらなくなる。
この男と別れたくない、心から思う。