名前を教えてあげる。
熱弁する順をヒロは、穏やかな目で見る。
「順。お前の気持ちも分からないではないよ。でもな、お前はまだガキだ。
社会で通用するはずもない。女に子供産ませて父親になるだけなら、猿だって出来るぞ。
第一、今通ってる学校はどうするつもりだ?」
「…辞めるよ」
順が俯き加減にぽつり、と返した途端、ヒロの顔色が変わった。
「辞める⁉気が狂ったのか?名門明応学院を!もうすぐ卒業だろうが?」
「……そうだけど」
「ハッ、お前ほどの優秀な男がドロップアウトするだと?
それは愚の骨頂だな。賢明じゃない。そんなことをしてみろ、一生後悔するぞ」
外人みたいに肩を引き上げ、両手の手のひらを天井に向けるジェスチャーするヒロに、なんとなく美緒は捉えどころのなさをを感じた。
日本人なのに、日本人じゃない、
異邦人の匂い。
ヒロの言葉に順は唇を噛んで黙り込んだ。
安全地帯に身を置いたことで、落ち着きを取り戻しつつある順は、気付き始めていた。
ヒロの言うとおり、学校と自分達が貫こうとしている件とは切り離して考えるべきだと。
親に背き、卒業まで3ヶ月ほどなのに高校を自主退学するーーー
それは一生消えないレッテルとなってしまう。