名前を教えてあげる。
美緒が小3の時、亡くなった祖母はクリスマスに全く関心がなかったし、三田村学園では、宗教色の強い行事はやらない。
生まれて初めてのツリーの飾り付けが楽しくて仕方なかった。
彼女とのデートで(どうやら期間限定の恋人らしい、と順が言っていた)ヒロは不在だったから、24日の夜は、ワンホールの苺のクリスマスケーキとフライドチキンを2人で食べた。
その後、真っ暗な部屋にキャンドルを幾つか灯して『結婚式』をやった。
ーーー入籍はまだ先だとしても、子供が生まれるまえに、お祝いをしよう。
それは、ここで暮らし始めてすぐの頃、決めた約束だった。
クリスマス・ディナーを食べた後、ジュエリーショップで買ったプラチナのペアリングをお互いの薬指に嵌めた。
「美緒…聴いてくれる?」
美緒の左手を両手で握ったまま、順は軽く咳払いをしてと真顔で訊いた。
「……うん」
美緒が頷く。
「…私、中里順は….…、
あ、やっぱやり直し!」
照れたようにニッと笑い、鼻の頭を掻く。
「…なあに?私って?」
不思議がる美緒の瞼を、順は自分の右手でそっと覆った。