名前を教えてあげる。

白のポロシャツにベージュのチノパン。ごく普通の中肉中背のなんの特徴もない男。

気弱そうで真っ先にリストラされそうな雰囲気。


美緒が2度、コーラと軽食を届けに入室した時は2度とも振り付きでEXILEの曲を歌っていて、ファンの美緒は、全然違うよ…と心の中で苦笑した。


30分ほど前、あの客がインターホンで1時間延長お願いします、と言った時、断れば良かった…などと考える。


店のドアに臨時休業と貼り紙をした。
あとやる事は、あの客が帰ったあとの片付けだけだ。


ほどなくして、仕事の終わった
伊藤が帰り、1人になった美緒は、ジーンズの尻ポケットからスマホを取り出し、画面をなぞった。



「あと15分くらいで終了時間だな……
早く帰れるから、恵理奈お風呂にいれてあげようっと…
だけど、これじゃ稼げないよなあ…」



カウンターに肘を付き、独り言をいう。


ここで働いている間は、家の中で起きている混沌ーーー恵理奈のいる状況を忘れられた。



唯一のママ友、同じ保育園に子供を通わせる白河紀香(しらかわ のりか)の電話番号をタップした。


同じキャリアで、通話料が掛からないから、仕事が暇な時は、時々、暇つぶしに掛けた。




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