名前を教えてあげる。
病院の広い待合い室には、美緒達の他に誰もいなかった。
首が座ったばかりの恵理奈は、バギーの中で目を固く閉じ、眠っていた。
あまりにも静かに寝ているので、美緒は不安になり、恵理奈の小さな鼻の下に人差し指を置いてみる。
(あ、息してる………)
かすかに空気の流れを感じ、安堵した。
寝ている恵理奈は天使みたいに愛らしかった。
(このまま、ずっとずっと寝ててくれたらいいのにな……)
そんなことを本気で願う自分をもう1人の自分が責める。
(それじゃ、まるで恵理奈、死んじゃえって言ってるみたいじゃない………
最っ低!)
美緒は乱暴に頭を掻きむしった。
自慢のセミロングヘアが痛んでしまうから、普段は絶対やらないのに。
神経質になっているのは、寝不足が続いているせいだった。
「まだかな……早く帰りたいのに。
もおっ、順が余計なこと言うからだよ!」
つい苛立った声が出てしまう。
恵理奈が生まれてから、美緒はいつもこんな調子の喋り方になってしまった。