名前を教えてあげる。
『エエッ?美緒、仕事じゃねえの?』
すぐに紀香の甘ったるい声が聞こえてきた。
「そうなんだけど、ヒマでさあ。台風ヤバイよね。
雨、降ってきたよ。バイト、早上がりになったしぃ」
『あ~やっぱ降ってんだ。
家にずっといるからわかんなかった。やっと冬物だしたよ。
ついでに炬燵セッティングしちゃった。まだスイッチいれてないけど』
「嘘っ!早!炬燵いいよねえ。
でも、うち、こうちゃんが炬燵嫌がるんだよね。
恵理奈がジュースとかこぼして布団汚しそうだから嫌だって…」
『…子供は汚すもんだよ?』
紀香の声が曇るのを、美緒は跳ね返すように言った。
「私もそういったんだけどね!自分だって、お菓子のカス、しょっ中こぼしてるし!
あ、ねえ、聞いてよ!
さっき、店長から電話あってさ。絶対愛人と一緒!
なんか後ろやたら静かだし、誰かと一緒にいるって感じだった。
よくやるよね~仕事、ほったらかしてさ」
『マジ?店長の愛人て、前に写メで見せてもらったスナックやってるとかのおばさんでしょ?
どう見てもアラフィフじゃんってウケたよね~』
電話の向こうで、紀香はケタケタ笑う。
人見知りの強くて、なかなか友達の出来ない美緒にとって、紀香は貴重な存在だった。