名前を教えてあげる。
「美緒、どうした………?」
順が顔を覗き込むと同時にくらり、と眩暈を起こし、美緒の身体はその場に崩れ落ちた。
午前中、健診を受けた診察室に舞い戻る形になった。
意識はすぐに戻ったのに、順の
「心臓を押さえて倒れたんです」
という訴えに、健診の時とは別の女医は、美緒の採血と採尿を看護師に命じて退室した。
検査結果を待つ間に、授乳の時間になってしまった。
「どうぞ。そちらのベッドをお使い下さい。もう午前の診療は終わりですから」
1人の看護師が、5台ほど並んだ簡易ベッドの1つを指差していった。
「ありがとうございます」
順は頭を下げたあと、ママバッグから哺乳瓶を取り出し、支度を始めた。
小分けした粉ミルクを、持参したステンレスボトルの湯で溶いて、しゃかしゃかと哺乳瓶を振る。
赤ん坊よりはギターを抱えたほうが似合いそうな若い父親の姿は、アンバランスで微笑ましかった。
逞しい腕の中が心地よいのか、恵理奈は小さな拳を握りしめ、勢いよくグッグッとミルクを飲んでいく。
ーー私の時は、むせたり、ダラダラ口の端からミルクを垂らしたりするのに…
美緒は、複雑な思いで眺める。