名前を教えてあげる。
・新たな決意
病院帰りに久しぶりのウィンドウ・ショッピングをする予定だったのに、そんな約束はなかったように真っ直ぐに家に戻った。
電車の中でも、美緒は順と恵理奈から離れて、1人で戸口に立って外の景色眺めていた。
ーーパパはもう少し気を付けてあげなきゃ。赤ちゃんもママも可哀想でしょう?
女医の口調は穏やかだったけれど、目は厳しかった。
順は、その視線を避けるようにまぶたを伏せた。
ーーこのままだと3月中旬くらいに出産することになります。
年子どころか、同じ学年になるわね。
部屋の隅に置かれた、替えの紙オムツや恵理奈の着替え、汚れた哺乳瓶が入ったママバッグには、禍々しい紙切れが潜んでいた。
ーー2人でよく考えなさい。
でも処置するなら、少しでも早いほうがいい。一応、中絶の同意書渡しておこうか?
ーーいや…
順が何か言おうとしたのを遮って、美緒は叫ぶように言った。
ーーお願いします!
私、生めません……堕します!
その一言を発した瞬間、辺りの空気が一変した。
友好的だった看護師達が、背中を向け横目で美緒達を見る。
ーー恵理奈だって、赤ちゃんだもん…
美緒の小声のいいわけに、誰も返事をしなかった。