名前を教えてあげる。


1日最後の授乳が終わった恵理奈は、隣の部屋で小さな寝息を立てていた。
いつもなら、愚図り出す時間なのに。


妊娠のことなど、今は考えたくなかった。

美緒はリモコンのスイッチに手を延ばし、チャンネルを替えた。


1度も見たことのない恋愛ドラマ。育児に追われて、まともにそんなものを観てる時間はなかった。


美緒の好きだった女優が、相手の男優に早口で何か言っている。
これから、思いがけない展開とやらが待ち受けているのだろう。


面白そうだった。でも、美緒はスイッチを切ってしまった。

こんなもの1回だけ観ても仕方ない。DVDがないから、録画も出来なかった。


美緒もこの女優が演じるヒロインのように、流行のファッションに身を包み、夜の街に繰り出してみたかった。

若い独身女性の生活。

セックスをしている時だけは美緒の精神は自由になれた。だから、この頃は美緒の方が積極的だった。


「書いてくれる?同意書…バッグの中に入ってるから」


小さな置き鏡に向かったまま、後ろに立つ順に言った。


「順…?」


返事がない。

美緒は振り向いた。





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