名前を教えてあげる。
「……」
順は思い詰めたような顔をして、突っ立っていたが、ばっと膝を折り、両手をカーペットの床についた。
「美緒、本っ当に、ごめん!」
深々と頭を下げ、声を張り上げた。
「申し訳ない!本当に済まない!許してくれ!」
「やだ、土下座なんてやめて。そんなことされても、どうにもなんないし」
美緒は虚ろに笑った。
怒りたかったのに、なぜだか笑ってしまった。
「…世の中、子供が出来なくて、悩んで不妊治療とか受ける人いっぱいいるのに。なんで私ばっかりすぐ出来ちゃうんだろう…?やな体質。
本当、不公平だよね……」
恵理奈を身籠もり、誰にも言えず、暗い穴の中に迷い込んでしまったような日々を思い出す。
お腹の子供が自然に流れて消えてくれるのを、心の底から祈り続けた日々。
思い出したくない、鬼だった。
美緒は順に背を向け、再びリモコンのスイッチを入れた。
テレビでは、何の宣伝なのか分からないCMをやっている。
騒々しい。
うるさい。
意味がない。不要だ。
それなのに、堂々と自分の存在を主張するもの……