名前を教えてあげる。
美緒の目の奥が熱くなる。
「いらないの……赤ちゃんなんか。
恵理奈で精一杯なのに…
恵理奈ですら、ちゃんと育てられなくて、健診に引っかかっちゃうのに……
おっぱいだって、全然出なかったし…ミルクだって、今だにうまくあげられないし…順のがよっぽど上手だし…
生む時だって、死ぬかと思うくらい痛いんだから……
もう嫌だ……」
ポロポロと零れ出す涙を手の甲で拭った。
「美緒」
順が背中から美緒を抱きしめた。
「…早過ぎるのは分かってる……
でも生んで欲しい…」
順が中絶に反対なのは分かっていた。
「俺、恵理奈の出産に立ち会って、人生観変わるくらい感動したんだ。
お腹の子には人格があって、もう生きる権利を持っているんだよ…」
黙りこくったまま、美緒は俯いた。
「俺、もっと働くから!
Wワークしたっていい。育児ももっと手伝うよ。双子みたいなもんだって、思えばいいじゃん…」
美緒は、思い切り頭を振った。
「だったら!」
すっかり伸び切ってしまったストレートヘアを振り乱し、順に縋った。