名前を教えてあげる。
受験生だった頃、眠気覚ましにコーヒーをよく飲んでいた順は、今でもコーヒーが欠かせなかった。
三段の衣装ケース。小さなテーブル。ピンクとブルーの色違いで揃えた座布団。
安物の生活用品しかない。
けれども、17歳と18歳で家を出た2人には充分だった。
引っ越ししたての頃は、毎日のようにホームセンターや100円ショップに行き、小物を買い求めた。
順とじゃれ合いながら、買い物カートを押す幸せな日々。
美緒はめったに掃除をしないのに、家の中が割に片付いているのは、順が小まめに整頓してくれるからだった。
ちょっとした合間に『コロコロ』やシートワイパーで床のホコリを取り、服が散らかっていれば、ハンガーに引っ掛ける。
ヒロのマンションにいた時は、勉強と称して、美緒はいろんな料理にチャレンジしたけれど、恵理奈を生んでからというもの、朝はパン、夜は惣菜や弁当、簡単ですぐ食べられるもので済ますことが多くなった。
それでも、順が嫌な顔をしたことは一度もなかった。
栄養の偏りを補う為に、毎日仕事の帰りにコンビニに寄り、カット野菜と牛乳を買ってきてくれた。