名前を教えてあげる。
ーー私、順に甘やかされている…
このままじゃ、どんどん嫌な女になっちゃう。
だけど、順の願いーーー2人目の子供を生む決心はつかなかった。
美緒は腹を撫でた。
「駄目じゃん……こんなに早く来ちゃ…早過ぎるって…」
こころなしか少し膨らんでいる気がした。
壁に貼られたカレンダーを見る。
ーー予定日は、来年の3月か……
あ、と美緒は気付いた。
来月は順の19歳の誕生日だった。
去年の順の18歳の誕生日には、皮のペンケースと手作りの受験合格の御守りをプレゼントした。
ファミレスでご飯をご馳走してあげるつもりだったのに、ビキニの出費が響いて、ファストフードのハンバーガーセットになってしまった。
『こっちの方が全然いいよ』
順はそう言ってハンバーガーにかぶり付いた。
あの頃には、もう戻れない。
何もかも捨てて2人で逃げて来たのだ。
大学進学、就職。
家族、友情、信頼…
失ったものは余りにも大きかった。
これからは2人で築いていかなければならない。
引き換えに恵理奈というかけがえのない命を得たのだから。