名前を教えてあげる。
・散歩して、福子おばあちゃん
順の勤務先のガソリンスタンドまでは、徒歩で30分ほどの道のりだった。
いつも順は自転車通勤している。
雨の日は、紺のフード付きレインスーツで完全防備していた。
その為に、順はいつも天気予報を気にしていた。
朝から降っているならいいけれど、レインスーツの準備なしに出掛けて降られると、ずぶ濡れになって帰宅することになる。
何度か、髪の毛から雫を垂らして帰ってきたことがあった。
水滴が伝わるうなじや、濡れたTシャツの身体のラインが、妙にセクシーで、順本人はやれやれなのだけれど、美緒はドキドキしてしまった。
『夕方から雨降るって』
朝、順がそう言っていたのに、レインスーツの入った巾着は玄関の脇に吊るしたままになっていた。
梅雨が開けるか開けないかの今の時期は、天候が不安定だった。
目を覚ました恵理奈にミルクを飲ませた後、バギーに乗せた。
「お散歩しながら、パパにカッパ持っていってあげようね」
美緒が後ろから言うと、仰向けに寝かされた恵理奈はニイッと笑った。まだ歯の生えてない口からピンク色の舌が見えた。
(子猫みたい…)
美緒は思う。