名前を教えてあげる。
恵理奈と初めての遠出の外出。
美緒は白いキャスケットを被った。
夏の陽射しを避けるため、バギーの日除けを目一杯伸ばす。
交通量の多い、国道沿いの道をバギーを押して歩いた。
白いノースリーブのブラウスを着た美緒の素肌を太陽がジリジリと焦がす。
「やべえ…日焼け止め忘れたわ」
順の口真似を自然にしていた。
道路を挟んで向こうには工業団地があるせいで、何台ものトラックが美緒達を通り越していく。
排気ガスでガードレールは、煤けて黒く汚れている。
決していい環境とは言えない。
それを補うかのように、濃いピンクの可憐な花を付けた木が、道路に沿って植えられていることに気が付いた。
深い緑色の葉に、四方八方に枝を伸ばした雑然とした繁り方。
「ああ…あれって、もしかして夾竹桃(きょうちくとう)かな?」
見覚えがあった。
美緒達の住むアパートの前の公園にも、この木が何本か植えられ、花を咲かせていたから。
玄関ドアを開けると真正面にあるので嫌でも目に入った。
公園の出入り口に1番近い木にプレートが括り付けてあって、『夾竹桃』の名前と特性が記されていた。
でも、それは白い花だった。
よく見るとピンクの花も白い花と同じ形だ。
(色違いなんだ……)