名前を教えてあげる。
アスファルトの道は、ところどころデコボコしていたけれど、スニーカー履きだったし平坦な道だから、歩くのは苦じゃなかった。
ただ、暑さが気になった。
バギーに乗せた赤ちゃんは地面に近く、体温が上がりやすいから、脱水に気を付けなければならない、と育児書に書いてあった。
白湯はステンレス製のボトルに入れて、用意してあった。
(帰り、どこかの日陰で飲ませようっと…)
時々、立ち止まって恵理奈の様子を見る。
腹にピンク色のタオルケットを掛け、気持ち良さげに眠っている様子が微笑ましかった。
マシュマロみたいなほっぺ。
小さな手足。
なぜか、あひるのくちばしみたいに唇をとがらせていて、それがまた可愛かった。
行く手にガソリンスタンドの電光看板が見えてきた。
もうすぐだ……と歩調を早めた時、看板の手前を白いワゴン車が横切る。
その車を追うようにして、赤いツナギを着た若い男が猛ダッシュで走り出てきた。
「ありがとうございましたあ!」
男は身体を2つに折り曲げるようにしてお辞儀をし、車が見えなくなるとスタンドに走って戻っていった。
その声と長いストライドから、順だとすぐにわかった。