名前を教えてあげる。
物陰に隠れて、仕事ぶりを見たかったのに。
計量機の横で振り向いた順は、すぐに美緒を見つけて走り寄ってきた。
「美緒!どうした?」
心配そうな顔で美緒の前に立つ。
背が高く、陽に焼けて浅黒い肌の順に、真っ赤なツナギはよく似合っていた。
その凛々しさに一瞬、美緒はどきりとする。
「……あ。夕方から雨の予報でしょ?
これ」
美緒はバギーの背のポケットに入れたレインスーツを手渡した。
「えっ、マジ?わざわざ持ってきてくれたんだ、ありがとう」
順は満面の笑みで受け取る。
「…ん。私の方こそ、お礼言わなきゃ。
夜、恵理奈の面倒みてくれて、ありがとう。
…眠いっしょ?」
きまり悪そうに美緒が訊くと、順は首を横に振った。
「あ、いや。別に。平気」
「それだけ。じゃ、仕事頑張ってね」
美緒がバギーの向きを変えると、順が
「なあ、待てよ」と呼び止めた。
「なあに?」
順を見上げるようにして訊くと、順は言いにくそうに頭を掻いた。
「あれ…嘘だよね?」
「あれって?」
美緒はきょとんとした。
「夕べ………稼げるなら、風俗やるって言ったの…本心じゃないよな?」
ツナギのポケットに両手を突っ込み、順は真剣な眼差しで美緒を見つめた。