名前を教えてあげる。
ふざけて乱暴な口調でいいながらも、紀香の温かな母性が伝わってくる。
前は自分もこうだった…と美緒は思う。
「うん、いいよ!じゃまたね」
明るく言って、美緒は通話ボタンを切った。
紀香は同い年でありながら、尊敬出来る存在だった。
シングルマザーで、恵理奈と同い年の龍亜と年子で1才下のそあらという2人の男の子を育てている。
1人でも大変なのに、ほとんど双子のような男の子2人の育児など、美緒には信じられない神業だ。
もっとも、美緒よりはずっと子育ての環境は良い。
近所に実家があり、パチンコ屋でのサービスレディの仕事が日曜、祝日に当たった時や遊びに行く時は、よく自分の両親に子供達を預けていた。
けれど、決して紀香は自分の子供をほったらかしているわけでない。
…人によっては、疑問を感じるかもしれないけれど。
派手なネイルや好みのファッションを楽しみながらも息子達に愛情を注ぎ、彼女なりに慈しんでいる、と美緒は思う。
そして、今、彼女が1番気にかけてるのは恵理奈のことだろう。
美緒も龍亜とそあらを自分の子みたいに思っているのと同じに、紀香も恵理奈を実の子みたいに可愛がってくれた。