名前を教えてあげる。
「マジすごいよね〜グランドピアノがあるって部屋ってどういうこと?意味わかんない!」
宝石箱のような夜景をバックに美緒は、カレーライスを口に放り込んだ。
仰々しくピカピカの銀の器に盛り付けられたそれは3000円もする。こんなに高いカレーを食べたのは初めてだ。
順がオーダーしたのは、ハンバーグステーキのセットで、カレーよりもっとする。
ルームサービスのメニュウを見たとき、美緒は怖気付いてしまった。
どれもこれも信じられない値段。
「ヒロに悪いから、外で食べない?」
と提案すると、順が「恵理奈連れてたら、ゆっくり食えねえじゃん。ホテルのレストランでもこれくらいするよ」と素のままで言うので、頷くしかなかった。
ワゴンに載せられて食事が運ばれてくる贅沢さも、初めてだった。
すごいすごい、を連発して、順と給仕の女性を笑わせた。
妊娠初期だというのに、全く悪阻がないのは、恵理奈の時と同じだった。
「なあ…あの話どうする?」
ハンバーグを咀嚼しながら、順が訊いた。
「…え、あの話って?」
ギクリとする。わかっているくせに美緒はとぼけた。