名前を教えてあげる。
ーー誰が本当の父親だが、分かったもんじゃないわ…
(このおばさん、そう言いたいんだね)
誰もが恵理奈は順に似ている、と言うのに。
けれど、再会は和やかムードだった。
「ここだけの話だけど、私も反対されたのよ。主人との結婚。
私が今でいうCAをやっていた頃、お客様だった彼と知り合ったのだけれど、サラリーマンだったことがね、うちの両親にしては気に入らなかったの。
私の父は歯科医で地元で知らない人はいない名士だったから、いい縁談があちこちから舞い込んでいたのよ。
でも、私は仕事が楽しいからって、見合いを断り続けていたの。
本音は恋愛結婚がしたくて、その相手探し。20歳を過ぎたばかりの娘がそれを望むのは当然でしょ?
サラリーマンと言っても、主人の勤め先は日本を代表する大企業なのよ。
海外にもたくさん支社があるんだから。
大学院卒で学歴だって、申し分ない。
背が高くて、凛々しいハンサムだったから、お似合いの2人だってよく言われたわ。
何より私を大事にしてくれる人。
1年かかって、説得して説得して、やあっと両親に結婚を許してもらったのよ…」
中里春香は、おしゃべり好きを充分に発揮して、目の前のアールグレイが冷めてしまうのを全く気にしなかった。