名前を教えてあげる。
「へえ…そうだったんだ!」
初めてきく母親の恋愛話に順は態度を柔らげ、細かく頷いて感心していた。
去年、初対面の美緒を詰った時のような、キツさは影もなく、柔らかな話し方に美緒は徐々に好感を持ったけれど、『義母』になる人とは思いたくなかった。
彼女の無神経さ。
目の奥に隠された底意地の悪さ。
それは、恵理奈を身籠もった時、冷ややかな視線を浴びせ、美緒に聞こえるように噂話をしたクラスメイトの女子と同じだった。
怖かった。
到底、心許せそうもなかった。
それなのに。
春香の方は、不自然に思えるくらいに上機嫌だった。
「ああ、美緒さん!」
「ハイ」
「もし良かったら、来週の『シャンゼリゼの会』…あ、私の趣味でやっているお教室なんですけど、そのあとのお茶会のお手伝いして下さらないかしら?
お教室の後、美味しいお紅茶とケーキで生徒さんをおもてなしするの。あなたを皆さんにもご紹介したいわ」
(げっ、何ソレ…)
帰りがけに言われた言葉に、美緒の顔は引きつってしまった。
「そんなこと無理だよ。美緒は恵理奈の世話で忙しいんだから」
すかさず順が助け舟を出してくれたけれど、順の母は事もなげに言った。
「あら、大丈夫よ。
恵理奈は育子さんに見ててもらえばいい。たまには育児を離れてリフレッシュすることも大切よ?
ね、育子さん!」