名前を教えてあげる。
こぐま組の母親の中で、高校生で妊娠したのは、美緒と紀香だけだ。


『同志』の2人の若い母親は、強い絆を持ち、親子で『お泊まり会』をやるのが、月に1度の恒例行事だった。


……それも美緒に恋人が出来るまでの話だったけれど。


紀香から、美緒の子育てを杞憂する言葉をきき、美緒は少なからずショックを受けた。


ーー美緒は偉いよ。何でも自分1人で頑張ってきたんだから。



養護施設出身の美緒に同い年ながら、いつも優しい言葉を掛けくれたのに。


お互いシングルとなったのも同時期だった。
悩みを打ち明け、傷を癒しあった。

紀香がいなければ、美緒はとっくに幼い恵理奈を手放していただろう。
自分のいた養護施設に。


美緒は、こつんと拳で自分の頭を小突いた。



ーーしっかりしなくちゃ…
いいにくいことでも、ちゃんとこうちゃんに言わなくちゃ…
恵理奈はまだ6歳なんだから……


ここまで考えて、はっとした。


何かがおかしい……


建物内が不気味なくらい、しん、と静かだった。
天井から降ってくるBGMがないせいだけではない。

明らかに、異変が起きていた。


「あっ!」


意識せず、走り出していた。

廊下を曲がった先にある3号室。



< 18 / 459 >

この作品をシェア

pagetop