名前を教えてあげる。


一斉に視線が向けられ、美緒を突き刺す。


「知り合いの娘をうちで預かることになりましたの」


春香は美緒をそう紹介し、
「よろしくお願いします」と頭を下げさせた。


そして、自分達が談笑する間、暖炉のそばに立ち、マホガニーのテーブルの上のティーカップに茶を注ぎ足す役目を命じた。


(まるで女中じゃん……疲れるなあ)


順と話し合って、2人目を妊娠中なのは、まだ春香に内緒にすることにしていた。

それは美緒の主張だった。

早過ぎる第二子の妊娠。無計画だと叱られるかもしれない。

『息子は、美緒という性悪女に騙されている』ーーー春香は、その疑いを今でも捨ててはいない。

これ以上、自分の印象が悪くなることは避けたかった。

はじめてのお茶会。
従順にしなければならない。

順の為にも、春香に気に入られるような娘を演じたかった。


10分も経つと、足の付け根が引っ張られるような、かすかな痛みを感じた。


(イタタ…あと何分くらいやるのかな。我慢するしかないけど…)


美緒は拳を握りしめる。


『先生』と同年代かそれ以上と思しき
『生徒』達は、雪のような白髪を高々と結い上げていたり、デザイナーズブランドらしき洋服や大きな宝石の付いた指輪を身につけていたりと、一見して上流家庭の婦人と分かった。





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