名前を教えてあげる。
残念ながら、そんな成金ファッションを見事に自分のものにしているのは、美貌の片鱗が充分に残る順の母・春香だけだ。
あとの女達は、見事な肥満体型だったり、痩せぎすだったり。
若い美緒には、せっかくのシャネル風のスーツや宝飾品が可哀想に思えてしまう。
テーブルは『タカナシ』という名の「鶴」を連想させるおばさんの旅行話で盛り上がっていた。
夫の還暦祝いに夫婦でパリ旅行をしたというタカナシは、メンバーの中で唯一気取りがないように思えた。
おばさま方のお喋りは、海外旅行の話が終わると健康や病気の話、家族の自慢めいた話……延々と続く。
ーー今のアパートで、美緒達と暮らしながら、来春、医学部のある大学を受験したい。
必ず医者になるから、応援して欲しい…
そんな順の願いは、息子を愛する母によって、あっさりと聞き入れられた。
受験に集中するためにアルバイトは辞め、その分、順の実家から生活資金の援助を受けることになった。
さらに春香は「実家とアパートを行き来しやすくするため」にと、新車のゴルフを初心者マークの息子に即金で買い与えた。
順は、納車されたばかりのその車で朝から予備校へ行った。入校の手続きが終わったら、美緒を迎えにくる約束だった。