名前を教えてあげる。
その仕草は、好意を持つ者へするものとは思えなかった。
「オホホホ、奥様ったら」
矢田育子が手のひらを口元に当てて、わざとらしく笑った。
「はい…」
美緒はますます赤くなり、小さな声で答えた。
(わ、私、そんな変なことした…?
これって、もしかして…)
その時、順の母・春香に虐められている、とはっきりと確信した。
「あ、それからタカナシ様に頂いた香水入れ」
春香はゆっくりと手を差し出した。
「私からお返しします。お出しなさい。
あなたにはもったいないから!」
濡れた赤い唇が、人を喰らったあとの鬼女のように見えた。