名前を教えてあげる。
・ウルサイ、ババア
「名前なんて入れたくない。ウルババ!…これで良し」
シャンパンゴールドの新しい携帯に順の母、『中里春香』を登録し終えた美緒は、ニッコリと笑った。
新車(シルバーのゴルフ)に続き、春香は、
『料金は私が負担するから。何かあった時、連絡がつかないと困るわ』
と順と美緒に携帯電話を持つようにと勧めた。
自分より、恋人を選んだ最愛の息子。
それは諦めるとして、以前のような親思いの可愛い息子を取り戻すべく、春香は必死だった。
携帯電話も、美緒を気にすることなく連絡を取りたいからで、美緒にも買ってくれたのは、そうしないと順が受け取りを拒否するからだ。
悪くない話にすぐに乗ったけれど、予想通り、代償はあった。
夜11時頃、毎晩といっていいほど、春香は順の携帯に電話をかけてくるようになった。
受験勉強を切り上げて、2人で過ごしている時間帯ーー時には裸でーーまるで何をしているのか、探りを入れられているような気になる。
そのたびに順はうるさそうに、
「なんでもないよ」「わかったよ」
短い言葉を返し、早々に通話ボタンを押す。
そして、打ち解けたわけでもないのに、美緒の携帯にも時々、春香からメールが来た。