名前を教えてあげる。
ぴんときた。
何かある……
美緒の予感はすぐに当たった。
「あのね、あなたに紹介したい方がいらっしゃっているの」
「はい」
春香は、もったいぶって笑顔を貼り付けたまま、犬に『待て』をするように間をおいた。
(早くしろよ…)
美緒は苛立った。
「クリスティン!いらっしゃい」
春香が声を張り上げると、
「はあい」
鈴を転がすような声が聴こえ、春香の後ろから黒いロングヘアの若い女が現れた。
「クリスティン・タカナシさんよ。
こないだお茶会にいらしたタカナシ様のお孫さん。
お母様はイギリス人でハーフなのよ。
以前、クリスティンのご一家は、うちのお隣に住んでいたの。
クリスティンのお父様がスイスに投資関係の会社を設立して引っ越してしまって以来、6年ぶりの帰国なのよ。
順とは幼稚園から小学校まで同じで。
とっても仲が良かったの。
今はスイスで音楽院に通ってらっしゃって、ピアノが専攻なのよ。あなたと同い年の18歳!」
春香が浮き浮きとした様子で、クリスティンを紹介する。
『ハーフ』『音楽院』『ピアノ』
やけに強調して発音した。