名前を教えてあげる。
母が頭を撫でてくれると分かった瞬間、恵理奈は破顔した。


天使の輪のあるしっとりした髪は、触ると気持ちがいい。

撫でられる恵理奈も気持ち良さそうにしている。


恵理奈は犬みたいだ…と美緒は思う。
飼ったこともないが、犬はこれくらい人に従順だろう。



「やだ、ママ、車の鍵、忘れちゃうとこだったあ、ドジだよね〜」


コルクの壁掛けから車のキーを取り出しながら、戯けた口調で言う。


また、恵理奈の小さな異変を見ぬ振りをする自分に気付いていた。



「焼きうどん、作ったよ。テーブルの上に置いたから。こうちゃんが起きたら、一緒に食べてね。

あと、シャワーにもちゃんと入って。
恵理奈、昨日も入ってないんだから。
1人で出来るでしょ?
もう年長さんなんだから」


うん、と素直にうなづく恵理奈の様子に、自分自身は昼前にスーパー銭湯に行ったことに胸がちくりとする。


恵理奈が保育園に行っている間に。光太郎と2人で。


恵理奈が大好きなスーパー銭湯。


もう多分、半年以上は連れていってやっていなかった。


光太郎は、恵理奈を連れて行くとうるさいから嫌だ、という。





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