名前を教えてあげる。
『これは、美緒の職務怠慢だから。その客の代金の半額、ペナルティとして給料から引くからね』
「どしたの?」
早く帰宅した美緒を見て、光太郎は目を丸くした。
小さなこたつに恵理奈と並んで入り、携帯ゲームに興じていた。
「暴風雨が来るからって、帰されたの」
美緒はダウンベストを脱ぎながら答えた。
へえ、と短い答えを返し、また光太郎はゲームに没頭する。
その小さな画面を覗き込むようにする恵理奈。
「焼うどん、美味しかったでしょ?ラード使ってみたんだ。紀香が味にコクが出るよって言ってたからやってみたんだ」
美緒が得意げに言うと、「うん」と光太郎は頷き、恵理奈も「すごく美味しかった。また食べたい!」と元気な声で言った。
なんとなく、食い逃げされたことは言わなかった。
この幸せな空間に、こそドロの男の話題などそぐわない。
恵理奈の髪は濡れていて、ちゃんと入浴を済ませていると分かった。
キッチンの片端には、すっかり空になった焼きうどんの皿とコップが2つ並んでいた。
父娘のように寄り添う2人を見て、美緒は祈るような気持ちになる。
こんな状態がずっと続きますように、と。