名前を教えてあげる。
保健室から美緒を救い出してくれたのは、間柴真由子以外にもう1人いた。
村岡というクラスメイト。
村岡はなんの関わりもないのに、美緒がさぼった授業のノートを貸してくれたり、売店で買ったパックのジュースを寄越したり。
村岡が明るく接してくれたおかげで、
美緒は教室に居場所を見つけることができた。
やがて「付き合って」と告白を受けた。
男の子に交際を申し込まれたのは、初めてだった。
嫌いではなかったので、しばらく一緒に下校したりしたけれど、結局、しっくり来なくて自然消滅した。
村岡は美緒と縁が切れてから、しばらくすると、隣のクラスの地味な女と付き合い始めた。
美緒とは口もきかなくなった。
今頃、どうしてるんだろう…
今更、矢野愛子にも村岡和彦にもなんの興味もないのに、なぜ急に思い出すのか不思議だった。
シャッ!
なんの前触れもなく、カーテンが開いた。
「あ、美緒!気が付いた?」
カーテンの間から顔を出したのは、順だった。なぜか懐かしい気がした。
「覚えてる?うちの庭で倒れたんだ。救急車でここに運ばれたんだよ。大丈夫か?」
「ああん、順…」
甘えたくなり、美緒が手を伸ばすと、順は後ろを向いて
「美緒が起きたんだよ」
と誰かに告げた。