名前を教えてあげる。
ふう……
ようやく自宅に帰り着いた美緒は、玄関ドアの前でため息を吐いた。
時間に間に合わない光太郎を、直接、茅ヶ崎の現場まで車で送った。
行きは光太郎が道順を指示してくれたから良かったものの、帰りは知らない道を使い慣れないカーナビを頼りに運転したせいで、本当にくたびれてしまった。
更に美緒のスマホが電池切れして、渋滞にはまり込んでしまったのに、恵理奈に電話することも叶わなかった。
間抜けな話だけれど、光太郎は、ひと月ほど前に酔っ払って免許証ごと財布を無くしてしまった。
さっさと再交付すればいいのに、腰が痛いという理由で家にこもってばかりで、それすらやろうとしなかった。
運転免許証があれば、光太郎に車で仕事に行ってもらい(遅刻は免れないが)美緒はホテルからそのまま家に帰れたのに。
もう午前10時近くになっていた。
「恵理奈!起きてる?ごめん、遅くなっちゃって!お腹空いた?朝ご飯、作るよ!」
靴を脱ぎながら、部屋の奥に声をかける。
しかし、母の声に反応し、聞こえてくるはずのパタパタ…という小さな足音はしなかった。