名前を教えてあげる。
「え…?」
バックルが引っかかってなかなか脱げないパンプスに、モタつきながら、もう一度声を掛けた。
「恵理奈!寝てるの?恵理奈!」
勢いよく、コタツのある部屋の襖を開けた。
6歳の娘の姿はない。
トイレにもいなかった。
美緒は呆然と立ち尽くした。
「なんでいないの……」
四角い炬燵(こたつ)テーブルの上には、ビニールの封が開いたままの食パン、汚れたヨーグルトの容器とスプーンが放置されていた。
「あっ!わかった!ここでしょ?」
中に隠れてるかもしれないと炬燵布団をめくり上げ、中を覗き込んだが、無駄だった。
サーモスタット機能はあるはずなのに、付けっ放しのコタツは中がかなり熱くなっていて、美緒は慌てて電源を切った。
誰かがこの家に入った形跡はないか……鍵はちゃんと閉まっていた。
美緒は辺りを見回す。
いつも恵理奈の保育園のスモックを掛けている子供用ハンガーが床に転がっていた。黄色い通園バッグもない。
ギクリとした。…嫌な予感。
「まさか…恵理奈、1人で保育園に行ったの…」
美緒が玄関に戻ると、やはり恵理奈の薄汚れたプリンセスキャラクターの靴はどこにも見当たらなかった。